記憶を探して

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 舌打ちを零して面倒くさそうに呟けば、背後の氷蘭が嬉々とした声をあげる。俺の呟きが聞こえていたのか、夏原さんまで喜びを頬に浮かべた。 「……仕方ないか」  祭りが開催されているなら、人はそれなりに集まっているはずだ。一人くらい御守りのことを知っている人がいてもおかしくない。  その可能性だけを期待して、俺はようやく町中に足を踏み入れたのだった。 ☆    ☆     ☆ 「うわぁ~!」  道を行く人々と出店を見て、夏原さんが心底嬉しそうな声を上げた。  道沿いに並ぶ出店からは、食欲をそそるような美味しそうな匂いがする。祭りの定番とも呼べるチョコバナナや焼きそばの店。それから、ヨーヨー釣りや金魚すくいなど、子供が好みそうな出店も多く出されていた。横を通り過ぎていく人々は、皆賑やかに祭りを楽しんでいるように見える。 「……」 「氷蘭?お前、こういうの好きなんじゃないのか?」  隣で黙り込む氷蘭の様子が気にかかって、俺は尋ねてみた。遊び好きの氷蘭ならば、こういった祭りの空気は好みのはず。てっきり、夏原さんのような反応をするかと思っていた。予想と違う反応に、思わず戸惑ってしまう。 「…………京真」 「なんだよ?」  消え入りそうな声で俺を呼ぶ。もしや、何か手がかりになりそうなものでも見つかったのだろうか。それとも、別の妖の気配でもするのか。氷蘭の様子は、普段からは想像できないほど落ち着いているように見えた。 「……私は“くれぇぷ”が食べてみたい!」  思わずズッコケた。  好奇心に満ちた純粋無垢な瞳が俺にそう訴えかける。コイツに一瞬でも期待した俺が馬鹿だった。視線の先にあるクレープの屋台を指差し、ぐいぐいと俺のジャケットを引っ張ってくる。 「ね?いいだろ?」 「ダメだ。また今度にしろ!」 「何故だ!?あのくれぇぷは毎回売っているわけではないのだろう?」 「今度売ってたら買ってやるから今は勘弁してくれ……!」 「京真のケチ!」 「ケチで結構」  不機嫌そうにそっぽを向いた氷蘭に淡々と返す。だいたいこんな人混みの中で氷蘭にクレープを与えたら、周りからはひとりでにクレープが動いて見えるだろうが。  まだ隣でギャーギャーと五月蝿く騒ぐ氷蘭は放っておいて、俺は近くの店を見つめていた夏原さんに声をかける。
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