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「何か見つかりました?」
「……いえ、私、たぶんこういうの初めてで……つい楽しくなっちゃって」
一瞬だけ垣間見えた夏原さんの記憶。この田舎町で開かれる祭りはおそらく今回のものだけだ。この町の人間であれば、一度くらいは訪れたことがあるだろう。しかし、今の口ぶりだと祭りに参加したことがないのだろう。夏原さんは、この町の人間ではないか、もしくは箱入り娘だった可能性がありそうだ。
「あの、少しだけ見て回ってきてもいいですか?」
夏原さんが控え目にそう尋ねてくる。本当は一緒に回ってあげたいところだが、俺は一刻も早く彼女の記憶の手がかりを探さなければならない。夏原さんが持っていた御守りについて、早く情報を掴む必要がある。
「私一人で大丈夫なので……。見て回りながら、いろいろ探してみたいんです。なんとなく、この町は懐かしい気がして……」
「……そうですか。では、これを持って行ってください」
懐かしそうに目を細めた夏原さんに、俺は小さな鈴のついた根付を渡した。もちろんただの根付ではない。祓い屋の能力で少し細工を加えた根付だ。
「これは?」
「御守りみたいなものです。それがあれば、迷っても俺の所へたどり着けます。お店見終わったら、俺の所へ帰ってきてくださいね」
「は、はい!何から何までありがとうございます!」
「いえいえ。行ってらっしゃい」
「行ってきます!」
夏原さんは向日葵のような笑顔でそう言うと、陽気に駆けだしていった。チリン、とまるで風鈴のような澄んだ音が鳴った。
「くくっ……京真の敬語って面白すぎて腹がよじれそうだな」
「黙ってろ」
「おぉ、こわっ。まるで別人だな」
「お前に敬語を使う必要は無さそうだからな。さて、夏原さんが帰ってくるまでに調査を進めるぞ」
「仕方ないなぁ。お手伝いといきますか!」
赤い御守りを片手に俺は人混みの中を行く。ようやく仕事モードに切り替わった氷蘭も、一度大きく深呼吸をするとふわふわと浮遊しながら俺の後に続いた。
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