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「一つ聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「ん?なんだい?」
「この御守りをご存知ないですか?」
俺は御守りを取り出して男に見せる。既にたこ焼きのトッピングを終えた男は、御守りに顔を近づけた。何度か瞬きを繰り返し、まじまじとその御守りを見つめている。
「いや、見た事ねぇなぁ」
「……そうですか」
「俺よりも御守り屋の方が詳しいと思うぞ」
「御守り屋?」
聞いたことのない単語に俺は首を傾げた。
「あぁ。この祭りの時期に御守りを売ってるじいさんが居るんだ。なんでも、力のある御守りだっていろんな御守りを売ってるらしいぜ」
たこ焼きの詰まったパックを袋に入れながら、男がしゃがれた声でそう語る。
御守り屋か。聞いたことはないが、これは重要な手がかりだろう。力のある御守りとまで言っているんだ。氷蘭が感じた不思議な力も、あながち間違いではないのかもしれない。
「その御守り屋、どこにあるんですか?」
「さぁ?俺ァ行ったことないからねぇ。出店の列に紛れてる時もあれば、遠く離れたところで店開いてる時もあるって噂だな」
「なるほど……」
「ほい、たこ焼き一人前だよ!」
「ありがとうございます」
「まいどあり!」
話を切り上げるようにたこ焼きを差し出してきた男に金を渡して、俺は店の前を後にする。一旦出店の列から外れて、先程から背後でウキウキしている氷蘭にたこ焼きを渡した。
「ほほう、これがたこ焼きか!」
「早く食えよ。こんなところで休んでる暇はないんだ」
キラキラと目を輝かせてたこ焼きを凝視している氷蘭にそう促す。俺が一人で御守り屋を探しに行ってもいいのだが、コイツは目を離した隙に何をしでかすか分からない。それに、周囲から見ればたこ焼きがひとりでに動いているように見えるはず。出店の列から外れたとはいえ、いつ人がこちらにやってくるか分からない。俺は氷蘭を見張っていなければならないのだ。
「はふっ!ほれあふいへほほへほおひひーな!」
「飲み込んでから話せよ」
出来立てのたこ焼きを口に放り込んだ氷蘭が涙目になって何かを訴えている。熱さに悶えているようだが、その顔は心なしか満足そうだ。
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