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「御守り屋、と言ったか?そんなもの私は聞いた事がない」
「俺もねぇよ。でもまぁこの辺りで店開いてるなら、探す価値はあるな」
「ほうふぁろうな!」
「だから食ってから話せよ」
気持ち悪いくらい緩んだ表情でたこ焼きを頬張る氷蘭を放って、俺は通りに並ぶ出店に目を移した。
するとその時、何処からか少女の鳴き声が聞こえてきた。
かなり近くで聞こえたそれの主を探せば、すぐ傍の木の裏で蹲っている少女の姿が見えた。
少女の足が透けている。それに、様々な妖を見てきた俺の勘が少女が妖であることを告げている。おそらく、害が無い方の妖だ。
俺はたこ焼きに夢中な氷蘭を置いて、その少女に歩み寄った。
「どうかしたのか?」
視線を合わせるようにしゃがみ込んで問えば、少女は泣き腫らした顔で俺を見つめた。
「お兄ちゃん、私が見えるの……?」
「あぁ。ちゃんと見えてるぞ」
「ほ、ほんとに!?」
涙に濡れた目を大きく見開いて少女が言う。証明するかのように少女の頭を撫でてやれば、少女はくすぐったそうに目を細めた。
「どうして泣いていたんだ?」
「……私ね、迷子になっちゃったの」
「うん」
「それでね、誰にも見つけてもらえなくてね、何日も森の中にいたの」
少女が萎みかけたヨーヨーの紐を握りしめたまま、つらつらと語る。
「お腹が空いて、眠くなっちゃって……気がついたらここにいたの」
「ずっと?」
「うん。みんな私のこと見えなくなっちゃったみたいで寂しかった。でもね、今お兄ちゃんが見つけてくれたから、私とても嬉しいよ!」
少女は歯を見せて笑った。まだ残っていた涙が頬を滑り落ちる。
おそらくこの子は、迷子になった末に衰弱死してしまったのだろう。少女ほどの年齢では、この世への未練も数えきれない程あるはず。しかし、一般の人間には幽霊や妖の類は見る事ができない。誰にも見つけられないまま、少女はこの町を彷徨っていたのだろう。
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