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「ありがとうお兄ちゃん。私を見つけてくれて」
「あぁ」
少女は半透明になった足で立ち上がる。その瞳にはもう涙はなく、吹っ切れたような雰囲気を纏っていた。まだ幼いのに、しっかりした子だと思う。まだやりたい事はたくさんあったはずだが、少女の一番の心残りはたった今果たされたように思える。そうなれば、俺は自分の仕事を全うするしかない。
「……まだ、遊んでいたいか?」
「ううん。私はここに居ちゃだめだもん。ママとパパにも会いたいけどね、行ったらもっと悲しませちゃうかなぁって」
「……そうか」
「お兄ちゃん、有名な人でしょ?」
「俺のこと知ってるのか?」
少女は俺を見つめたまま、にこりとあどけない笑顔を浮かべる。
「うん。私みたいな子を見送ってくれる優しい人だって」
「……」
「だから、私のこともお見送りしてね!」
黙り込んでしまった俺の手を、少女はそっと包み込む。
胸がズキリと痛んだ。俺は優しい人間などではない。妖を祓っているのは、単なる俺のエゴだ。誰からも喜ばれることではない。そう割り切っていたつもりなのに、何故だか胸が苦しくなる。俺のやっていることは、本当に正しい事なのかと。
……こんなに意思が弱いようじゃ、死んだ家族に怒られてしまうな。
「分かった。名前、教えてくれるか?」
「あゆだよ!」
優しく尋ねれば、少女が元気よく答えた。
「……あゆ」
少女の名前を口にし、俺は一度目を閉じる。瞼の裏に閃光が弾け、聞きなれた言霊が脳裏を流れていく。
どうか、この少女が安らかに眠れますように。
俺は目を開き、淡い光の宿った右手で少女の頭を撫でる。朝の太陽の光のような温かい光が少女を包み込むと、そのまま何処か遠くの世界へと連れていく。
「おやすみ」
花のような笑顔の少女にそう言って微笑すれば、声にならないお礼の言葉が聞こえた気がした。優しい光が空へと帰っていき、少女の姿はもうそこには無くなっていた。
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