序章

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 強い思いを持つ人間がその一生を終えると、妖になるという。  後悔や憎しみなど、思いの形は人間によって千差万別だ。その思いの形に左右され、特に死の間際に抱いていた感情を元に、人間は二種類の妖に分けられる。  人に害を及ぼさない平穏な妖―いわば単なる浮遊霊のような存在と、人や街に危害を加える悪霊のような妖。人間の成れの果ては、大きくその二つに分けられている。  俺は、昔からそういう類のものが見える人間だった。幼い頃から、俺は他人とは違う世界の中で生きている。普通の人間には見えないものが俺には当たり前のように見えていて、会話をすることだって可能だった。もちろん、見たくないものも多く見てきた。この体質のせいで、命の危機に瀕したこともある。  しかし、俺には不思議な力があった。全知全能ではないが、妖を祓うことの出来る力だ。その影響もあってか、妖に家が襲われた時も俺だけが命をとりとめている。  俺はあの日に決めたのだ。妖は、この世に存在してはならないもの。俺がこの手で必ず妖を全て祓うと誓った。何十年かかろうと、どれだけ体がボロボロになろうと、俺はそれを成し遂げるまで死ぬことは許されない。  妖は嫌いだ。家族を奪ったアイツ等が憎い。家族を守ろうと叫ぶ父の声も、俺と兄を必死に抱きしめる母の体温も、目が眩みそうなくらいの赤色も、未だに憶えている。  祓う目的以外に妖とは極力関わらないようにするつもりだった。  ……それなのに何故、俺の傍らには妖の少女が居るのだろうか。
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