神様の御守り

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 人波に飲まれながら俺たちは出店が並ぶ通りをようやく抜けた。この通りを歩くだけでひどく疲弊した気がする。五歳くらい老けた気分だ。  通りを抜けると、何の飾り気もない田んぼ道が広がっている。いかにも田舎という言葉が似合う風景だった。しかしまぁ、今日は祭りということもあってそれなりに人は歩いている。  此処に来るまで、たこ焼き屋の男が言っていたような御守り屋らしき店は見かけなかった。並ぶ店はどれもよくある出店で、一風変わった店は見受けられない。御守り屋は、今日は開かれていないのだろうか。 「なぁ京真」 「なんだ」 「あっちから変わった匂いがする」 「なんだそりゃ。お前は犬か」 「私は人間だ!犬ではない!」 「いや人間でもねぇだろ」  氷蘭が遠くにある小屋のような建物を指差した。突然匂いがどうのこうのと言い出す氷蘭にそう言ってみれば、わざとらしく頬を膨らませる。そもそもコイツは人間ではなく妖だし、元人間だとしてもいつの時代の人間なんだよ。平安時代くらいの人間か?俺からしたらそれは同じ人間のようには感じられなかった。 「とにかくあの小屋の方へ行こう!」 「おい、急ぐなってば」 「早く行かないと御守り屋が逃げるだろう!」 「急がなくても御守り屋は逃げねぇよ」  ふわふわと浮遊しながら小屋の方へと急ぐ氷蘭を止めるが、珍しくやる気になっているようで止まらなかった。巫女服のような衣装が風を受けて揺れている。長いクリーム色の髪がまるで金糸かのように靡いた。  俺は先に行った氷蘭の元へのんびり歩いて向かう。左腕につけられた腕時計を一瞥すれば、すでに時刻は四時を回ろうとしていた。日が完全に暮れるまであと二時間弱だ。それまでに御守りの調査を終えて、夏原さんの記憶を取り戻させないと。 「柊さーん!」  その時、背後から太陽のように明るい声が聞こえた。振り返ると、夏原さんが大きく手を振りながら駆けてきている。チリン、と彼女が走る度に冴えた鈴の音が鳴った。
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