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「夏原さん。祭りは楽しめましたか?」
「はい!いろんなお店を見て回ってきました!」
「それは良かったです」
「柊さんの方はどうですか?」
「微妙なところですね。とりあえず今から御守り屋に行くところです」
満足そうに笑顔を浮かべる夏原さんに、氷蘭が向かった小屋の方を指差す。
「御守り屋?」
「はい。祭りの時に御守りを売っている店があるらしくて。そこの店主なら、この御守りのことを知っているかなと思いまして」
「なるほど!私が呑気にお祭りを楽しんでいる間にすみません……」
「いえいえ、良いんですよ。さ、行きましょうか」
これ以上ないくらいの営業スマイルを浮かべて俺は小屋を目指す。日中よりも日が傾きかけているせいか、虫が飛び回るようになってきて鬱陶しい。そのうえ足場が悪く、無数に転がる小石のせいでたまに転びそうになる。できれば早く依頼を終えて家に帰りたい。こんな田舎で夜を越すのは御免だ。
夏原さんと田んぼ道を歩いて二分ほどすれば、ようやく目的の小屋まで辿り着いた。小屋の横では、待ちくたびれた氷蘭が腕を組みながら不機嫌そうな表情をしていた。
「遅いぞ京真!私はもう疲れた!」
「へいへい。悪かったな」
唾も飛びそうな勢いで氷蘭が詰め寄ってくる。蝿でも追い払うような仕草をすれば、「扱いが雑!」とさらに噛みついてくる。
「あの、柊さん?どうかしたんですか?」
「え?あぁ……」
しまったと思った。夏原さんが見ているのを俺はすっかり忘れていた。夏原さんは不審者に向けるような視線を俺に向けている。それもそのはずだ。夏原さんから見たら、俺は何もない空間に向けて一人で喋っているのだから。
「あー、えっと、これは」
「ぶふっ、京真め、やってしまったなぁ!」
「からかう暇あったらどうにかしろよ。俺が変人になっちまうだろうが!」
「それは元々──」
「黙っとけ!」
俺の隣で氷蘭は目に涙を溜めながら笑い転げている。怒鳴り始めた俺を見て、夏原さんは青ざめた顔で怯えているように見えた。完全に変人認定されてしまった気がする。もうここまできたら俺に打開策はない。
「ふむ……。なら、その少女にも姿が見えるようにすればいいのだな?」
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