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「…………は?」
たぶん俺は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているだろう。対して氷蘭は隠しようもない得意顔で笑っていた。
「だから、その少女に私の姿が見えるようにすれば問題ないのだろう?」
「……んなこと出来るのか?」
「ふふふ、この氷蘭様に出来ないことはないのだ!」
そう高らかに告げると、氷蘭は夏原さんを穴が空きそうなくらいじっと見つめる。キラリと輝いた黄色い瞳が閉じたかと思うと、氷蘭の長い髪が意思を持ったかのようにゆらゆらと動き始めた。元々氷蘭の姿が見えている俺には分からないが、おそらく夏原さんにはこれで氷蘭が目視できるようになっただろう。
だって、夏原さんが大きな瞳をこれ以上ないくらいに丸くしてぽかんとしていたから。
「わあああああっ!?」
「おー、良い反応だ!」
青ざめた顔で悲鳴を上げて尻もちをつく夏原さんを、氷蘭が嬉々とした表情で見下ろしている。無邪気な幼子のような様子に、これはもう手に負えないと俺は頭を抱えた。
「どうだ、面白かったか!?」
「ひ、ひぃ……っ」
「む?そこまで驚くことなのか?」
氷蘭を見つめたまま今にも泣きそうな顔で震えた声を零す夏原さんに、氷蘭が顔を近づける。氷蘭は心底楽しんでいるように思えるが、夏原さんはきっとそれどころじゃない。
「可愛いなお主!えっと……、ゆづかと言ったか?ところで私と遊んではくれないか?」
「ひ、柊さん……っ」
「あー、すみません驚かせて。そいつは……」
「氷蘭と言うものだ!よろしく頼む」
助けを求めてくる夏原さんに言い淀むと、氷蘭がニコニコと笑いながら夏原さんに握手を求めていた。
「よ、よろしくお願いします……」
未だ怯えた眼差しを向けたまま、夏原さんは恐る恐る氷蘭の手を握った。氷蘭は満足そうな表情をして、「どうだ!」と言わんばかりのしたり顔で俺を見る。
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