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「おい、あんま夏原さんを怖がらせるなよ。」
「怖がらせてなどいない!礼儀正しく自己紹介をしただけだ!」
「どこが礼儀正しいんだ馬鹿野郎」
小動物のようにガミガミ吠える氷蘭を適当にあしらう。俺の本性を見たせいか、はたまた氷蘭の姿を見たせいか、夏原さんは呆気にとられた様子で俺たちを見つめていた。
「あ、あの……これは一体……」
「あー、夏原さんと同じ妖ですよ」
「貴女も?」
「うむ!ゆづかと同じ妖だ」
「どうして私の名前をご存知なんですか?」
先程から平然と夏原さんの名を呼ぶ氷蘭に、夏原さんはこれまた不審者を見つめるような怯え切った眼差しを向ける。その眼差しが堪えられなかったのか、氷蘭はわざとらしく落ち込んだ素振りを見せる。
「まぁ、依頼の話をした時からコイツは一緒でしたからね」
「えぇ!?本当ですか!?」
「はい。ただ姿が見えていなかっただけで。今コイツが夏原さんに見えるようにしただけみたいです」
「そ、そんなこと出来るんですか……?」
「そうみたいですね。……俺も今知ったけど」
隣でニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべている氷蘭を睨みつける。そんな力が使えるなら最初から使ってほしかったものだ。半年も共に過ごして一度も使わなかった。最初から姿が見えるようにしていれば、周りに気を配ることなんてしなくてもよかったのに。
「ゆづか、私もお前の成仏の手伝いをするぞ!」
「氷蘭さん……」
「ふふ、氷蘭おねぇちゃんと呼んでくれても良いぞ」
「え、その……き、氷蘭おねぇちゃん……」
「ひゃー!何とも愛らしい子だ!」
気持ち悪いくらい頬を緩めた氷蘭がぎゅうぎゅうと夏原さんを抱きしめる。氷蘭の方が小さいせいか、妹が姉に抱き着いている様子にしか見えない。いや、どう見ても氷蘭の方が妹ポジションだ。
……俺は一体何を見せられているんだろうか。
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