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「帰ったぞ!」
「相変わらず早いなお前」
「この氷蘭様を舐めてもらっては困るな!」
「ただの妖のくせに何言ってんだ」
差し出してきた本を受け取って、俺は得意げな氷蘭に向けて呆れたように言い放つ。それが癪に障ったのか、氷蘭はムッとした表情で俺を睨んだ。
「……ただの妖ではないがな」
「はいはい」
「信じてないな?」
「まぁな。今まで見てきた妖と変わらねぇ雰囲気してるし」
出会ったあの日から、氷蘭は“ただの”妖ではないと断言してくる。確かに、どこからかっさらってきたか分からない巫女のコスプレみたいな衣装を身に纏っているし、やたら現代のことに疎いし“ただの”妖ではないだろう。だが、氷蘭から感じる雰囲気は道端で遭遇する妖と何ら変わりはない。ただ、未だに害のない妖なのか危険な妖なのかが判断できなかった。半年も共に過ごして俺が殺されていない時点で、コイツは少なくとも危険ではないはずだが。
「ふふふ。私は契約が出来る妖なのだよ」
「あー、なんか前も言ってたな。どんな契約が出来るんだ?契約したら、お帰りなさいご主人様!みたいな関係になれるのか?」
「京真は私にそんな関係を求めているのか!?」
「冗談に決まってるだろアホ!」
青ざめた顔で急速に後ずさった氷蘭に一喝する。変なところで冗談が通じないから困る。自分が一番冗談を吐くくせに、他人の冗談は真に受けるってどういうことだよ。
「まぁ、契約できるのは本当だからな。いつでも私の力を頼ってくれても良いぞ!」
「誰が頼るか。俺は妖は嫌いなんだよ」
得意げに胸を張る氷蘭に、俺は低い声で告げる。仕方なく妖である氷蘭を部屋に置いているが、時折しまい込んだ憎悪が溢れかえりそうになる。コイツも、家族を殺した奴等と同じなのではないかと。望んで妖になったわけではない妖たちに、罪はないというのに。
「ほぉ、それなのに積極的に妖に関わりにいくのだな」
「不本意だがな」
「なら、“祓い屋”なんてやめればいいのに」
いつになく真面目な声音で氷蘭がそう言った。
祓い屋。
俺が数年前に始めた仕事だ。妖が見えることと俺が持つ不思議な力を活かして、この世を彷徨う妖を祓う──もしくは成仏させることを目的としている。成仏できない妖の心残りを探す依頼だって受ける時もある。一種の探偵のような仕事だ。
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