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「俺は祓い屋を続ける。俺自身がそう決めたからな」
「ふーん。何故そこまで妖を祓おうとするのだ?別に放っておいても、京真には関係がないだろう?」
「……さぁな、なんとなくだ」
不思議そうに小首を傾げた氷蘭に、俺ははぐらかすようにそう答える。「つまらない!教えろ!」と彼女に怒られたが、知らん顔をしておいた。
俺が妖を祓う理由は、ただの憎しみからくるものだ。人々を守るためだとか、成仏させるだとか、綺麗な理由は考えればいくらでも存在する。
しかし、俺にそんな綺麗な理由はない。ただ、妖の存在が憎いがために祓い屋の仕事をしている。
──いつの日か、妖が居ない平和な世界を夢見て。
「あ、京真」
「なんだ、何回聞かれても理由は教えないぞ」
「そうじゃない。誰か来るぞ」
氷蘭は俺にそう告げると、部屋の窓まで浮遊して外を見下ろした。すると、数秒後に古めかしいインターホンの音が聞こえた。
「客か。ま、たぶん仕事だろうな」
ソファから腰を浮かせ、俺は玄関へと向かう。その後ろを、当然のことながら氷蘭が着いてくる。大抵の人間には氷蘭の姿は見えないだろうから別段問題はない。しかし、此処を訪ねてくる者の一部には氷蘭の姿が見え、中には怯えて逃げ帰る者もいる。
俺の家を訪ねてくるのは、九割が望まずこの世を彷徨う妖だ。
「何か御用ですか?」
扉を開けると、中学生くらいの茶髪の少女が緊張した面持ちで立っていた。
「あ、あの……柊さんのお宅であってますか?」
「はい、そうですよ」
「お願いがあって来たんです……!どうかお話だけでも聞いてもらえませんか?」
直感でこの少女が妖だと俺は理解した。しかし、危害を加えるような気配は見受けられない。だとすれば、いつもの依頼だろう。
今日は休みのつもりだったが、どうやら忙しくなりそうだ。
「どうぞ。その依頼、お受けします」
「え……、えっ!?まだ内容をお話していませんが……」
「どんな依頼でも受けるのが俺の仕事です。さ、中へ」
俺は困惑する少女を家の中へと招いた。「お邪魔します」と小さな声であいさつをすると、少女は丁寧に靴を揃えて家へ上がる。居間に少女を待たせ、俺は台所へと茶を淹れに行った。
「さては京真、あの少女に惚れたであろう!」
「お前の思考回路はどうなってんだこのドアホ」
「アホとは失敬な!」
「ただ依頼だからだよ。あの子は妖みたいだしな」
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