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相手が妖となれば、依頼内容がどんなものであれ引き受けなければならない。危害を加えるタイプには見えなかったから、おそらく生前の記憶を取り戻す手伝いになるだろう。成仏の出来ない妖は、大抵が生前の記憶を失っていて現世に留まる理由を忘れてしまったからだ。
「それにしても、仕事モードの京真は似非紳士であるな!」
「放っとけ。俺だってあれぐらいの態度は余裕だわ」
背後でケラケラと笑う氷蘭を適当に流し、茶を淹れた俺は居間に戻る。セーラー服を着た茶髪の少女は、未だ緊張した様子でソファの隅に腰かけていた。
「お待たせしました。これ、普通の緑茶ですがどうぞ」
「あ、ありがとうございます……!」
俺がにこやかにそう言えば、少女は少しだけ表情を和らげて湯飲みを受け取った。俺は少女の向かいに腰かけて手帳とペンを取り出す。少女が一息つくまで、俺は少しだけ少女の様子を観察していた。
……不思議なものだ。妖とはいえ、一般的には幽霊と全く変わらないはず。それなのに、此処に来る者たちは皆普通に飲食できるし、物に触れることだってできる。まるで普通の人間と接しているみたいで、なんだか不思議な気分だった。
「今日は一体どんなご用件で?」
少女が湯飲みを置いたのを見て、俺は少女に尋ねた。
「あ、えっと……私、結構長く成仏できなくて……この前、私が見える人に出会った時に、あまり長くこの世に居ると悪い妖になってしまうと言われまして」
「なるほど。生前の記憶は無いんですか?」
「はい……。ほとんど何も覚えてなくて。だから、何が原因で成仏できないのか分からないんです」
少女は制服のスカートを握りしめて震えた声で告げた。俺は相槌を打ちながら、手帳に依頼内容をメモしていく。生前の記憶探しは、一番多いパターンの依頼だ。
「柊さんには、成仏のお手伝いをしてほしいんです……!些細な事でもいいんです。私に関する手がかりを何か見つけて頂ければ……」
「分かりました。現時点で分かってることとか、手がかりみたいなものを持ってたりしませんか?」
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