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剣を腰にしたその姿はとても侍女には見えないけれど、それもそのはず、彼女は先の戦で、サリアの兄とともに戦場を馳せた勇士だった。勇者の兄をして、「シシュハ随一の武者」と言わしめた女丈夫である。
今回、彼女がスメラオミ国までのサリアの警護を担当してくれることになっていた。いつもは、兄のそばにいるのだが、今は臨時でサリアの侍女となっていた。
「あなたが来てくれると思えば本当に心強いわ、カンナ」
「あんたの兄さんのリョクスからは、スメラオミの若き王がくだらないやつだったら、斬ってくれって言われててね。とんだ兄バカだよ」
カンナは、肩をすくめるようにした。
サリアは驚いた振りをしながら、
「わたくしの夫を斬るなんてやめてください、カンナ。未亡人になってしまいます」
「そりゃ、あっちしだいだね。あたしとしても、大事なサリアをやるんだ。ねっこのところは、リョクスと同じ気持ちさ」
はすっぱな言葉づかいは、およそ王女に対して為して良いものではないが、カンナとはつまりそういう特別な立場にいる人だった。シシュハの下臣というわけではない。先の戦のときも特に王に請われて戦っただけであって、今も王に仕えているというわけではないらしい。客分扱いである。不思議な人だった。
「大体にしてね、女を何だと思ってるんだい。女は政治の道具じゃないよ」
カンナは怒りをにじませた拳を机にうちつけた。
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