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第3話「兄妹の別れのとき」
玉座の間を出て回廊を歩き、サリアは自室に向かっていた。
泣くためである。
感情をあふれさせたかった。
でなければとても耐えられそうにない。
「サリア」
中庭の見えるところまで歩いて来た時、前から声がした。
サリアは立ち止まった。
今もっとも会いたくない人に会ってしまったサリアは、笑顔を改めて張り付けた。
「お兄様」
「父上のお話とは何だったんだ?」
近寄って来た兄は切り口上である。
サリアは、頭一つ分ほど高い位置にある顔を、しっかりと見つめると、
「お喜びください。わたくしの婚儀が決まりました」
華やいだ声を投げた。
「婚儀……だと?」
兄は整った眉をひそめた。
十七の彼は、王の第三子であり、さるスメラオミとの戦では、シシュハを代表してよく戦った。
「シシュハの勇者」とは彼のことである。
サリアはこの兄のことが好きだった。力強く優しい兄は、サリアの理想の男性像だった。
兄もよくサリアを可愛がってくれていた。
ためにおそらく、自分の結婚が彼を大いに苦しめることになるだろうと、サリアは考えた。考えて、できる限りそれをやわらげるようにしたいと思ったけれど、
――無理よ……。
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