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【見えない明かり】
いつもの時間、私がいるのはいつもの名前のない街。
暗い場所にはタバコの火だけがチラリと明かりとなる。
季節は秋の終わり、すぐそこに冬が待っている。私は巻いているマフラーに顔をうずめた。
この地域は雪こそ降らないけどそれだって冬は寒い。
家にいれば暖房も温かい毛布もあるけど、ここにはそういうのとは違う温かさがある。
だから寒い思いをしてでも着たくなる。それなのに。
「今日も来ないのかな・・・」
いつもなら私より先にいて、高いジッポでタバコに火を点け『最近どうですか?』と聞いてくる人がもう5日も来ていない。
別にここに来る来ないは自由。約束しているわけでもないし、彩斗にだって都合があるだろう。
もしかしたらバイトかもしれない。この時間帯は時給のいい店がほとんどだ。
そこまで考えてるのにバカみたいに寒い中彩斗を待っていた。
「おーい、紺野スマホ鳴ってる」
「あ。ああ、ありがとう」
この音は帰る時間を教えるアラーム。結局この日、彩斗とは会えずに帰ることとなった。
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