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バーナーの火にかけたフラスコの中で、透きとおった緑色の薬液がこぽこぽと音をたてはじめた。あらかじめ粉末状にすり潰しておいたアニシアの葉に、沸騰した薬液をピペットで一滴ずつ加えていく。とろりとしたペースト状になるまで根気よく混ぜ合わせれば、母直伝の特製傷薬の出来上がりだ。
完成した傷薬を小瓶に詰めて、私は窓辺を振り返った。
白いレースのカーテンが揺れる出窓の側で、ギュンターさんは黙って外を眺めていた。灰がかった金色の髪が微かな風に揺れて、少し長めの前髪の陰に空色の瞳がちらりとのぞく。均整の取れた筋肉質な身体に騎士装束を纏う彼は、フィオラント王国騎士団第二隊隊長を任されている実力者であり、王宮で働く女性たちの憧れの的でもある存在だ。
「お待たせしました、ギュンターさん」
私が窓辺に歩み寄り、薬の小瓶を差し出すと、ギュンターさんは軽く頭を下げて、それから爽やかに微笑んだ。
「いつもありがとう。助かるよ」
「いいえ。毎日お勤め、ご苦労様です」
私も軽く頭を下げて、にっこりと笑ってみせる。薬の小瓶を受け取ると、ギュンターさんはひらひらと手を振りながら私の部屋を出ていった。
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