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 私は扉の前に立ち、これから新たな任務に着くという彼の背中を見送った。  フィオラント王国の人々の暮らしは、昔から魔獣と呼ばれる凶暴な獣に脅かされてきた。魔獣は通常、彼らの縄張りである森や山奥に潜んでいるものの、時折り人里に降りてきては、畑を荒らし、家畜を襲う。王都から離れた村や集落で暮らす人々にとってはそれだけでも充分に恐ろしいものなのに、繁殖期には群れを成して人間の女を攫ったりもするらしい。  そういった魔獣の脅威から人々を守るのが、ギュンターさん達??フィオラント王国騎士団であり、私は少しでも彼らの役に立てるように、母に教わった調薬で彼らの後方支援をしている……つもりだ。  ――本当に、少しでも役に立てていればいいのだけど。  ギュンターさんの後ろ姿が曲がり角の向こうに消えるのを見届けて、私は部屋に戻り、作業台の上を片付けはじめた。調薬に使う器具の多くは陶器や硝子製で、とてもデリケートなものばかりだ。陶器や硝子が欠けないように、慎重に丁寧に調薬器具を片付けていると、ややあって窓辺で軽い音がした。  こつん、こつん。小石が窓硝子にぶつかる音だ。
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