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 私の部屋は中庭に面した王宮の一階の片隅にある。王宮で暮らす大勢の人々の中で、わざわざ中庭側から私を呼びつけるような真似をする人物を、私は一人しか知らない。洗いかけの調薬器具を流しに置いて、私は窓辺に向かい、白いレースのカーテンを開け放った。  思ったとおり。  橄欖石によく似た緑色の瞳をしたその人は、窓辺から少し離れた場所に立ち、右手を軽く振り被ったところだった。私が錠を外し、窓を開けると、彼はいつもと同じように窓枠を踏み越えて私の部屋に入ってきた。小石を外に投げ捨てて、酷く不機嫌な仏頂面で私をじろりと睨みつける。 「傷薬をよこせ」  不遜な態度でそう言って、右手のひらを突き出した。 「はい、今すぐに……と言いたいところですけど、まずは傷を見せてください。症状に合わせて薬をお出ししますので」  つんと澄まして事務的な言葉を口にすると、私は彼の手を取った。  片翼の鷹の紋章が両袖と左の胸元に刻まれた上等な服は、フィオラントの王族だけが身に纏う神聖なものだ。その袖口から肘に至る部分が、砂にまみれて擦り切れている。強引に袖を捲り上げてみると、思ったとおり、肘にかすり傷があった。
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