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「転んだんですか?」
「どうでもいいだろ」
「魔法で治しましょうか?」
そう言って彼の表情を窺うと、彼は露骨に眉を顰めて私をキッと睨みつけた。
私――ココラッテ・アインベルクは、現国王の契約の魔女である母に師事する魔女見習いだ。普段はまじないや調薬を専門に扱っているけれど、それとは別に、傷を癒す魔法のちからをこの身に宿す――そういうことになっている。
本当は、癒しの魔法なんて使えない。私の身体に備わっているのは、そんな奇跡のようなちからじゃない。他人の傷を自分の身体に貰い受けるだけの、対して役にも立たないつまらないちからだ。けれども幼い頃、私は彼の――クラウス・フィンク・フィオラントの契約の魔女になりたくて、癒しの魔法が使えるという大きな嘘をついたのだ。
傷を貰い受ける方法は簡単なものだ。相手の傷に手で触れる、それだけでいい。
軽く擦りむいた彼の肘に、私はそっと手をかざす。瞬間、ぱしんと音がして、同時に手の甲がじんと痺れた。
「やめろ! 触るな!」
怒りをあらわにそう告げると、クラウスは素早く窓枠に足を掛けて、中庭に飛び出した。
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