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「えっ?! 待って、傷薬は……?」 「いらない! こんなもん、唾つけときゃ治る」  ぶっきらぼうに言い捨てて、彼はあっという間に向かいの渡り廊下に姿を消した。  私は呆然と窓辺に立って、じんと痺れる手の甲をさすり続けた。  クラウスはつくづく王子らしくないひとだ。言葉遣いも身の振り方も、やんちゃな男の子そのものだ。国王陛下の親衛隊長である父の話によれば、公の場では猫をかぶって王太子らしく振舞っているようだけど、こんな調子ではいつボロを出してもおかしくないのではと心配になってしまう。  昔はもっとおおらかで愛想が良くて、お伽話に出てくる王子様みたいだったのに。私にだって、もっと優しくしてくれたのに。  こんなふうに突き放すような態度をとるようになったのは、いつの頃からだっただろうか。
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