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東京から高知へ
夜行の高速バス、東京八重洲発ー高知駅行き、消灯間際の車内で、男は眠っていた。その前どなりの席には、今し方初めて会ったばかりの少女も、眠っていた。
少女のバス代を青年が出したのは、本意ではなかった。が、夜行バスの時間が迫るなかで、交番で足止めを食らうのはイヤだったので渋々と出したのだった。
「少女は、どうしておれなんだろう」
青年はつぶやいた。寝言なのだろうか、それはわからない。
「パパ、パパ」
と呼ぶ小学生を無視する男、それが東京駅での中井恵一(なかい けいいち)の姿だった。警官に見咎められたのが運のつきだった。少女の意図は恵一にはまるで見えなかった。ともあれ、少女は高知に行くことになった。何もいわないが顔には安堵とともとれる笑みが浮かんでいた。
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