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夢と知った時に身体を満たすのは、この上ない満足感で。
ほどなくして、罪悪感のため息をつく。
一応、眠っている間に見てしまう夢ばかりは仕方のないことだと、思うことにしている。
夢を恐れて眠ることをやめてしまってはいざという時に周囲に迷惑をかけてしまうと正論めいた言い訳を盾にして、これくらいは許されるだろうと逃げ道を作る自分はかなりの卑怯者だ。
すべては、己のために。
永久に、兄の近くにいるために。
憲二。
あの、古い花園を贈りたいのだと言っても、多分、笑うだけだろう。
それでも。
閉じられたあの王国は、自分にとって何よりも美しい世界だった。
自分にできるのは、守ることだけだから。
そのためなら、この身体くらい誰にでもくれてやる。
台所のテーブルに置き忘れていた、個人名義の携帯電話がふいに鳴る。
今は明け方の五時。
ニューヨーク滞在中の憲二は、古い友人たちとの交流を楽しんでいる頃だろうか。
画面の発信元を確認してから受話のボタンを押した。
「・・・はい」
聞こえてくるのは、かなり酔いの回った女性の甘えた声。
「わかりました。車で迎えに行きましょう」
どのみち、今日は九時には仕事に入らなければならない。
それまでなら泥酔した婚約者の相手をするのも、たやすいことだ。
「そのお店であと少し待てますか?今なら十五分くらいで着けると思います」
寝間着を脱ぎながら時間繰りの算段をし、軽く受け合いながら電話を切った。
この人でなしめ。
もう一人の自分が非難の声を上げた。
その一方で、これは正当な取引だと嗤う自分もいる。
奔放な娘を持て余す相手先と、真神の資産を維持したい自分。
互いの利害が一致して、婚約することにした。
数年妻として引き受け、報酬として多額の金を貰う。
彼女の親族たちと交わした契約だった。
政財界ではよくあることで、本人も了解していることだけど。
これでいいのかと迷うのは、彼女と接する瞬間だ。
この関わりに、実を欲しがっているそぶりを見せられるたびに心が揺れる。
でも今の自分には、こうするしかないのだ。
鬼にでも、何にでも、なってみせよう。
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