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「しょーがねーから祝ってやるよ」
「ほんと!?」
「ああ。でも俺女物とかよくわかんねーからほしいものとかちゃんと言えよ」
スタスタと歩いていく桜介は大股で、彼の一歩があたしの二歩になる。
足早に歩いても差がついてしまっている気さえする。
必死になって彼の大きな背中を追いかけていると、だんだん速さに慣れてきた。
すると、彼が少し斜め前を向いて歩いているのが分かった。
それまで桜介はずっと前を見て歩いていると思っていた。
でも、違った。
彼は、河川敷で野球をしている小学生を見ながら歩いていたのだ。
「―――桜介」
「何?」
思わず立ち止まり、彼を呼び止める。
足音が聞こえなくなり、立ち止まった彼は振り返ってあたしを見た。
「今年の誕生日プレゼントはいらないからさ」
「…」
「来年ちょうだいよ」
「来年って、まだ今年の誕生日来てねーのに? 」
「うん、でも来年がいい」
ほしいプレゼントが、喉の奥から言葉が出てきそうで出てこない。
それでも大きく息を吸ったあたしは、震えそうになる口に精いっぱい力を入れた。
「―――来年の甲子園の土、持って帰って見せに来てよ」
慣れない笑みを作りながら言う。
言って、よかったのかな。
本当は、言ったらダメだったのかな。
桜介に「いい迷惑」って思われたかな。
―――あたしのこと、嫌いになっちゃうかな。
出そうになる涙をぐっと堪えていると、彼はつとあたしを見つめた。
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