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「そうですね」
シン……とした一瞬が、できてしまった。
母親の様子からして、どの母親も「すみません!」と謝るのが当たり前の状況であっただろうに、あろうことか凜は「泣いてるんですけど」の言葉に「そうですね」と事実をにこやかな笑顔で肯定しただけだったのだ。
大型スーパーなだけあって遊び場もそこそこ広く、他の親も通行人もたくさんいたために、このなかなかの異様な状態に一部の人が「フッ」とこらえきれない笑いを漏らしてしまった。関係ない人であれば凜の対応は、まぁ確かに間違ってない、という受け答えであるから、温度差も相まってちょっとしたコントにも見えたからだろう。
その「フッ」が母親の導火線に火をつけてしまったようで、彼女は爆発したように「はぁぁあ!?」と声を上げてきた。
「まず! 謝るのが! 先じゃないですか!? あなたの子が叩いたってウチの子が言ってるでしょう!?」
不愉快なほど唾を飛ばしながら母親は爆発してきた。まぁ、何も見ていない人にとったら母親の言うことは至極真っ当な意見だろう。
けれど、凛にとっては違う。
凛は彼女のように携帯を弄ってはいたが、ちゃんと一部始終見ていたのだ。だから、元々翔が一切悪くないのがわかっていたので意地悪のつもりで言った。
「どこを叩かれたのかな? もちろん、お母さんも見ていらっしゃったんですよね?」
被害者ぶっている男の子が他の子に色々とやらかしていたのを知っていたので、制裁スイッチの入った凜。
周りに知り合いがいようがいないが関係ない
我が子に害をなすものは、排除
凜は、その場の温度が5度くらい下がりそうなにこやかな冷えた笑みを浮かべた。
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