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遊び場のど真ん中でトラブったせいか、周りの人々が静かに様子を見守っていたので凛の声はよく通ったらしく、ぶつかられていた子や、その子どもの親の視線がじっと男の子に注がれた。我が子にぶつかられた親は凛が把握しているより多かったようで、少し睨み気味で見ている親が多数いた。
睨むんじゃなくて言えよ、自分で。泣いてるじゃん子ども、と凛がまた大きなため息をつきそうになっていると、突如母親が大きな声で「行くよ! 帰るわよ! もうこんなとこ嫌!」とまだ涙ぐんている男の子の腕をとれるんじゃないかと思うぐらい勢いよく引っ張ってさっさと去っていった。
――まだまだ言いたいことはあったけど、案外言い返してこなかったな
なんだかつまらないような、まあこれ以上面倒くさいことにならなくてラッキーかと凜が考えていたら、一番傍にいた女性がそそっと近づいてきて「ありがとうございます。困っていたので、助かりました」と声をかけてきた。見ると、女性の腕の中でおでことほっぺを赤く腫らした、翔と同じくらいの年頃に見える女の子が目にいっぱいの涙をためていた。凛が何も言わないでいると、「あの男の子、いつも来るたび誰彼構わずぶつかってきて……本当に困ってたんです。でも、あの様子でしたら当分来なさそうで、ホッとしました」と聞いてもいないのにベラベラと喋り始めた。
「……え、前もあったんですか?」
「そうなんです! むしろここ最近毎日のように来ては暴れて色んな子にケガさせて……」
「え、ケガもさせてたんですか」
「そうなの! 本当、困るでしょう?」
「誰も注意しなかったんですか?」
「え?」
「え?」
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