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トモキが酔って帰って来るのはライブが成功した時だけだった。 彼のために用意した、手料理は冷めきっていて、それを見たトモキは酔いが醒めたように、ごめんと呟く。 「なんで謝るの? ライブ成功したんでしょ? よかったね」 「うん、ありがとう。せっかく用意してくれたのにごめんね」 「そんなの気にしなくていいのに。 それよりどうだったの? 聞かせてよ」 トモキが嬉しそうに感想を話す。 ライブの打ち上げで食べてきた筈なのに、気を遣って温め直して食べてくれる彼の優しさが好きだった。 トモキのバンドは徐々に、でも着実にファンを増やしていった。 最初の頃は、高いノルマを払って出ていたライブばかりだったが、ライブハウス側からオファーをもらって出る事も多くなっていった。 トモキの夢が叶うかもしれない。 それと同時に私の夢も叶うと思っていた。 でもいつからか、私の夢はトモキと一緒になること、に変わっていた。 夢に向かって歩くトモキを、応援するフリをしていたんだ。 彼の夢が叶ったら、私の元から離れていくのがわかっているから。 一歩ずつ夢に近付いていく彼は、一歩ずつ私から離れていった。 もう見えなくなる前に、トモキから答えを出される前に、私から別れを切り出そうと思った。 だけど、簡単には割り切れなかった。 結果は同じなのに、もしかしたら何かが変わるかもしれない。そう思うと声にならない。 祖父の言葉が頭の中をよぎった。 『死ぬ事に怯えながら長生きしても楽しい訳がないだろう、それならきっぱり受け入れて次の人生に思いを馳せるのも悪くない』 確かにそうかもしれない。 私は今、別れという結果に向けて、必死に延命治療をしているだけ。 私に取っての癌はトモキだ。 心を、身体を蝕んでいく。 あらゆる場所に転移して、私がトモキで埋まっていく……。 祖父のように決断できたら、笑って過ごせるのだろうか。
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