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数年前に癌を患った祖父は、延命治療を拒んだ。 「死ぬ事に怯えながら長生きしても楽しい訳がないだろう、それならきっぱり受け入れて次の人生に思いを馳せるのも悪くない」 そう言い放ち、豪快に笑って死んでいった祖父の事が私は大好きだった。 学生時代勉学に励むことも、スポーツに打ち込む事もなかった私は、一流とは程遠い、いわゆる普通の大学に入学した。 そうしたのは進路に悩んでいた頃、祖父が言った、 「大学なんて勉強する所じゃないよ。自分が将来何をしたいか、それを四年間で考えるためにあるんだ。だからその四年でやりたいことが見つからなかったら普通の人生を歩めばいいんだよ」 という励ましの言葉を間に受けて、気が楽になったからだった。 だけど結局、四年間考えたけれど、やりたい事、なりたい職業は見つからなかった。 手当たり次第に応募した会社の大多数から、違う場所での未来を応援された。その中で二社だけが、私を受け入れてくれ、単純に給料の良い方に入ることにした。 普通の人生を送るということが、こんなにも難しい事だったのかと痛感するのには、入社して一ヶ月も掛からなかった。 何の取り柄もない私は、上司や先輩、同僚に愛想を振りまいているだけのただの人形。仕事上ではものの役にも立たない。 取り立てて趣味がある訳でもない私の日常は、普通などではなく、ただただ無為に過ぎていった。 そんなどうしようもなく空虚な夜にトモキと出会った。
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