悪魔の所業はここから

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 将来有望の空手家だったのに、高校で本格的な活動を辞めてしまった。いろんな人に引き留められて周りからも散々考え直せと言わたが、それでも巽は撤回をしなかった。  運動が苦手な晃太は、どちらかというと華奢な方で色も白い。逆に巽は線が太く大柄で、いかにもスポーツマンといった体格だ。  しかもこの男、顔がいいのである。高校時代から複数の事務所から声をかけられ、雑誌に載ったこともある。本人が承諾したスポーツ誌ではなく、ファッション誌にだが。  これの反響は大きく、しばらく巽の周りは大変なことになっていた。  本人に雑誌の話をすると不機嫌になるので周りも段々と口にしなくなったが、モテ度は飛躍的に向上し次から次に告白されていた。  思えば、あの頃が一番辛かった。  実らない恋に蓋をして、クラスの友人に協力をしたりもした。そのくせ巽が断ると勝手にホッとしたりして、最低だったと思う。 「晃太クン、痛いです」 「愛だ愛」 「愛が痛いなぁー」 「お前の愛が足りないんじゃねーの?」  そう言って炬燵の上の蜜柑を巽の口元に持って行く。チュ、と音がして巽が柑橘の香りが漂わせるそれにキスをした。    切れ長の瞳に色が浮かび上がる。晃太は気付かぬフリをして、綺麗な色をした蜜柑を差し出した。 「剥いて?」 「……蜜柑だけ?」 「他に何があったっけ?」     
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