悪魔の所業はここから

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悪魔の所業はここから

「ほら、アー」 「ン」  口の中に放られた蜜柑、一欠けら。  甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がり、祖母から実家経由で大量に送られてきたダンボール一杯の蜜柑を堪能する。  近所に配り、友人らにも押し付け、自分たちも消費に努めること一週間。ビタミンCのお陰で体調もすこぶる良い。今日も二人で食後のデザートに小さなこの果実を食べていた。 「俺、肌ツルツルになるかも」 「実際ツルツルになってる」 「え、分かんの? そんな顕著?」 「この前、舐め回した時に気付いた。お尻の穴んとこまでツルツ……ッぅぐ」  背もたれ代わりの硬い腹に肘鉄を入れて、昂太(こうた)は自ら蜜柑を口に放る。後ろから腰に回された腕に力が入り、引き寄せられると顎を掬われた。  真上を見れば、正面に恋人の顔。  百六十一センチしかない昂太と、百九十センチ丁度の(たつみ)との身長差はおよそ三十センチ。中学から帰宅部一筋の昂太と違い、巽は実家が空手道場で未だに稽古を怠らない有段者だ。高校時代はIH個人の部準優勝の経験もある。     
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