弐日目 1

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   資料館に行った後は、土産物屋が並ぶ商店街で買い物をする。うるさい島津を置いて生徒たちは走り出してしまい、僕だけがその場に残された。  一人の方が考え事に集中できるので、僕としては願ったりかなったりなのだが。  そう言えば母親が饅頭を土産に欲しがっていた。面倒だが地元では有名な店らしいし、何なら自分用にも買っても良い。  たくさんある看板の中から目当てのものを見つけ出し、店の中に入る。 「はい、いらっしゃい」  四十代くらいの女性に声をかけられたので軽く会釈する。僕は持ち帰りやすいサイズの饅頭を一袋と、その場で食べる饅頭を二つ買った。  実のところ、彼女に会ってからろくに飯が喉に入らず、お腹が空いていた。  用意されている椅子に座り温かい饅頭を一口齧ると、確かに美味しい。餡の程よい甘みが口の中に広がり、砂糖由来の洋菓子には出せない和菓子ならではの味わいだ。 「美味しいでしょ、その饅頭」  後ろから肩を叩かれる。  僕の耳の中でずっと聞こえていたその声が、思いがけない場所で真後ろから聞こえてきた。  振り返ると、あの日と同じ格好の彼女が、あの日と同じ悪戯っぽい笑顔で立っていた。 「な、なんで......」 「ん?だってここ、私の家だし。こんな偶然あるんだねー」  絶句する僕をよそに、彼女は僕の横に座ると、左手からまだ食べていない饅頭を奪い取り、大きく口を開けてかぶりついた。
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