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僕はようやく平静を取り戻し、右手の饅頭を食べながら何でもないように聞いた。
「......昨日のことだけど」
「んー、美味しい。やっぱりウチの饅頭が世界一だね!」
露骨に話を聞かない振りをする彼女に、返事が返ってくる事をそんなに期待していなかった僕は頷く。 昨日のことは、恐らく島の人たちも知らない彼女と僕だけの秘密、という事だろう。
だが、僕はもう一つ、彼女に話しておかなければならない事があった。
「今日、資料館に行ってきた。興味深い話をたくさん聞いてきたんだけど......話したいことはそれじゃない。そこで僕は、奇妙な男に出会った」
「奇妙な男?」
彼女は興味を示したようで、饅頭を食べる手を止めた。僕はほっとして、話を続ける。
「そう。その男は、袴に着物、頭には烏帽子という明らかに浮いた格好をしていた。しかも、大シャチ様の資料を見ながら『もうすぐこの島は終わりだ』と呟いていたんだ」
「確かに変だね。でも、それがどうかしたの?」
「......僕は、そういう格好をしている人を他にも知ってる。あれは、陰陽師の正装だ」
やけに嫌な予感がしていた。
もちろん、思い過ごしという事も十分にあり得る。だが、このまま放っておいてはいけない気がしていた。
「陰陽師って......何?名前は聞いたことあるけど」
彼女は怪訝そうな顔をしている。普通の人の反応はそんな所だろう。
今日彼女に会えてよかった、と僕は思った。これから彼女には、恐らく一から説明しなければならない。
調べる時間はすでに全くと言っていいほど足りないのだから、少しでも多くの時間を調査に割きたい。そのためには、今日説明を済ませておくのがベストだ。
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