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弐日目 2
「今から、かなり長くて難しい話をする。でも重要な話だという事を理解してもらうために、先に要点だけ話すことにするよ」
僕はそう前置きする。彼女はゆっくり頷いて、饅頭の残りを全部口に入れた。
「陰陽師は、簡単に言えば呪いをかけたり解いたりする人のことを言う。日本では主に平安時代に活躍して、有名な貴族たちを裏で支えた。時代の変化とともに彼らが起こした超常現象のほとんどは科学で解明されたが、未だ原理がわかっていないものも多い。
そして、今でも陰陽師はひっそりと活動している。かつて貴族たちに見せたような不思議な力を、隠し持っている人たちも多い」
「......何で君は陰陽師とやらにそんなに詳しいの?」
彼女は頼んでもないのに挙手をして、怪訝な顔をして尋ねる。
「僕の名前は、アベハルアキと言ってね。漢字で書くと、かの高名な陰陽師、安倍晴明と全く同じ字なんだよ。意識せざるを得ないだろう?......まぁ僕自身は、この名前をあまり気に入っていないんだけど」
「......じゃあ、これからハル君って呼んでいい?ちなみに私の名前はヒミコ。姫って呼んでいいよ」
「ビッグネーム同士って訳か。ヒミコと姫の間に全く類似性が感じられないんだけど、触れない方がいいかい?」
「うん、早く先に進んで」
他愛もない会話を重ねる度に、彼女の唇の間から潮風のような吐息が漏れる。
いや、こんな言い方をすると僕が変態みたいだから撤回するが、とにかく心地いい気分になることは確かだった。とはいえ、先は急ぐ。
「陰陽師が使える呪いっていうのは、個人を対象としたものばかりで、島全体に効果が及ぶようなものはそんなにない。
式神って聞いたことあるかな?可能性があるとすればあれくらいなんだけど、通常の式神は力がそんなに強くなくて、それこそ安倍晴明クラスじゃないと大したことはできない。......となると、可能性があるとすれば『悪業罰示式神』くらいだ」
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