弐日目 2

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「吉将っていうのは良いものを運ぶ将、凶将は悪いものを運ぶ将のことだ」 「うへえ、大変そう」 「けど、大方の予想はつく。  相手が千年に一人の天才でもない限り、十二天将を完璧に操ることはできない。季節、十二支、方角が完全に一致して、ようやく呼び出せるくらいが現実的だ。  暦の上では今は夏の終わり、すなわち土用ということになるけれど、土用の凶将は勾陳と天空。勾陳は京にいるだろうから違うし、黄砂や霧で島を潰せるかといえば微妙だ。  ......となると、立秋、すなわち8月7日を迎えた後の白虎。明後日は土用の丑の日だから、最初に十二支が一致するのは今から9日後という事になる。  姫、心当たりはある?」 「9日後......。あっ、今度この島で開かれるG20がちょうどその日だよ!」 「それだ!神というのは実際に形があるわけじゃなく、ほとんどは残した痕跡で存在を証明する。そして、白虎の場合は疫病を撒き散らす!  世界中の首脳どもを、まとめて疫病に感染させるつもりだ!」  そんな事になれば、文字通り島は終わる。  観光振興のチャンスは一転して致命傷になり、最悪の場合物資も届かぬまま隔離されて、老いた者から疫病で死んでいく、というような事になりかねない。 「大変!早く駐在さんに伝えなきゃ......」 「信じてくれる訳がない。それに、僕だってこんな突飛なことを完全に信じてる訳じゃないんだよ」  だから、調査が必要なのだ。陰陽師に詳しい僕と、この島に詳しい姫なら、敵の正体や確実な証拠を見つけられるかもしれない。  いや、見つけなければ、この美しい島は無人島になって忘れ去られてしまう。 「......本当は今すぐにでも動きたいんだけど、僕には臨海学校がある。こんな事を教師に話すことが出来ない以上、少なくとも集団行動時は形だけでも皆と一緒にいる必要がある......。明日は、一日中自由行動なんだが」 「解った。私もギリギリまで調べるし、役に立ちそうな人とも約束しとく」  真剣な顔で頷く姫。普通の少女なら、こんな事取り合ってもらえないどころか、変人扱いされるだろう。新手のナンパと思われるかもしれない。  そうならないのは、姫自身もまた、この世界には科学では説明できないことがあると知っているからだ。島の守り神を口笛一つで気軽に呼び出せるなんて、普通の少女に出来ることじゃない。
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