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「よく来たね、ヒミコちゃんと......電話で聞いたよ、ハル君だろ?」
「正確には、安倍晴明といいます」
僕は速攻で訂正する。いくら自分の名前が好きじゃないとはいえ、五十以上も年上の人にそのあだ名で呼ばれたらかなわない。
そんな村長は、せっかくの自由行動だというのにわざわざ自分に会いたいなどと言ってくる高校生に気さくに接してくれる。姫が一緒にいるということもあるようだが、これなら話も聞きやすそうだ。
「......あまり時間を取らせるわけにもいかないので、手短にお話します。僕は自由研究でこの島の歴史について調べているのですが、資料館の資料だけでは足りなくて」
「ああ、そういうことなら遠慮なく聞くといい。お役に立てるかは分かりませんが」
もちろん自由研究云々は全て嘘だ。だが、本当のことを話すわけにもいかないので仕方がない。人を騙すのは好きではないが、緊急事態、例えば島の存亡がかかっている時などは別だ。
「ありがとうございます。では......この島と、陰陽師に何か繋がりはありますか?」
正直、ダメ元で聞いた質問だった。この件については既に姫が調査済みで、新しい情報は何もないはずだった。
だが、それを聞いた村長の反応は、明らかにおかしかった。
「......陰陽師?」
「......はい。何か知ってるんですか?」
一瞬で真顔になった村長に問いただすと、村長は我に帰ったように体を震わせた。
「いいや?ここは離島だから、昔の文化はそんなに伝わらなかったんじゃないかな?......なんでそう思ったんだい?」
「いや、大したことじゃないんですが......」
聞き返されて言葉を濁すと、村長はほっと息をつく。そして、いきなり厳しい目つきになって、
「用件はそれだけかな。私も忙しいから、帰ってくれないか」
と告げた。決して怒鳴ったわけではなく、あくまで丁寧な口調だったが、その眼には有無を言わさない雰囲気があった。
豹変した村長に姫も驚きを隠せないようで、、制服の裾を引っ張って帰ろうと合図する。だが、僕としてはここで引き下がる訳にはいかない。
村長は、明らかに何かを知っている。
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