壱日目

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   僕の学校......市立湾岸南高校では、高校2年生になると8月の初めに四泊五日の臨海学校がある。  場所は、僕たちが通う高校から連絡船で10分ほどの離島、鯱神島。古くから僕たちの街と交流があり、この臨海学校も伝統行事として百年の前から続けられている。  五日間も離島に閉じ込められて、生徒たちはさぞ不満だろうと思いきや、意外にも皆見慣れない環境での生活を楽しみにしているようだ。どうやら去年さんざん先輩たちから土産話を聞かされたらしい。  そして僕たちは今、鯱神島に向かう連絡船の中にいる。 「あっ!見えてきた!」  誰かが甲板で叫んだ。 「普通」の生徒であれば期待と幸せで胸いっぱいのはずのこの状況でも、僕の表情は全く変わらない。幸せを手放して代わりに得たものといえば、周りから気味悪がられるほどの無表情だけだ。 「コラ、騒ぐな!他のお客さんもいるんだぞ!......おいそこ、危ないだろうが!」  そこら中で唾を飛ばすのは、僕たちの担任であり今回の臨海学校の引率、島津だ。  民俗学者としての顔も持つが、授業中にまで民俗学の話をし始める厄介者。しかもやけに観察眼が鋭く、白髪混じりの髪に年齢不詳の顔立ちと合わさって、「妖怪教師」というあだ名までつくほど生徒からの評判は悪い。  僕は読んでいた小説をバッグにしまうと、船の揺れに転ばないよう立ち上がった。もうじき船は島に着く。  僕はこの先の限りなく面倒な五日間を思い、溜息をついた。
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