壱日目

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   少しでも静かで涼しい場所はないものかとさまよっているうちに、海水浴場の端まで来てしまった。砂浜にロープが張られていて、その先には人影が全くない。  そして僕はその先に、読書にとても都合の良さそうな岩陰を見つけた。  だが、ルールは理由があって存在するのであって、とても大切である。  何故この先に立ち入ってはならないのか書いていない以上、ロープをまたいだ瞬間埋まっていた地雷が爆発したとしても文句は言えない。  だがよく見ると、僕が今立っている砂浜には空き缶がたくさん落ちている。  どう見ても漂着物ではないから、他の観光客か僕たちの高校の生徒が捨てていったのだろう。  つまり彼らもルールを破っておきながら、何のお咎めも受けていない。  そう考えると馬鹿正直な自分に腹が立ってきて、恐る恐るロープの先へ歩を進めた。  幸いなことに地雷は爆発しなかった。  ちなみに後から知ったことだが、あのロープは天然記念物である海を保全するためのものであり、特に危険という訳ではないらしい。  そんなことも知らない僕は、適当に選んだ推理小説の目新しいトリックに脱帽しながら空が茜色になるまで読み耽る。  そろそろ集合時刻だと思い、本に栞を挟んで畳もうとしたその時、ポンと肩を叩かれ、驚いて振り向く。 「ここ、立ち入り禁止だよ?」  彼女はそう言って、悪戯っぽく笑った。
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