壱日目

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 民宿に帰ってきて、夕食を食べて部屋の電気が消えても、あの巨大な生き物、いや生き物と呼んでも良いのか分からない「其れ」の姿は目に焼き付いて消えなかった。 「其れ」は彼女の言う通り、確かに鯱の姿をしていた。だがその大きさは、図鑑で見た鯱よりもはるかに大きいように見えた。  そんな大きさの鯱が果たしているのか、僕は知らない。  けれど、「其れ」は、ただの鯱でもなかった。 「其れ」を見た瞬間、得体の知れない神々しさと、温もりを感じた。その温もりは、島全体を包み込んでいるようだった。 「彼女は、誰なのか」  僕は頭の中で呟く。  彼女が奏でたあの音色もまた、「其れ」の姿とともに耳を離れない。五人が一組になって眠る部屋中は、凄まじい音量のいびきで満ちているというのに、だ。  これまで僕の人生の中で、こんなにも一人の人間のことを考えたことがあるだろうか。あの不思議な現象のせい、と自分を納得させても、もう一人の自分がそれを否定する。 「もしかしてお前は、彼女に恋をしているんじゃないか?」と。  もやもやしているうちに睡魔がさざ波のようににじり寄ってきて、僕は眠ってしまった。
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