弐日目 1

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弐日目 1

 明くる日、僕たちは村長の案内で資料館に出掛けた。 「鯱神島は古くより、神話が残る島として伝えられていました。天下統一を目指した織田信長も、鯱神島には足を踏み入れられなかったと言われています」  村長はそんな説明をしながら、資料館の奥のへと僕たちを連れて行く。飾られているのは、いかにも古そうな一枚の巻物だ。  しかしそこに描かれているものを見て、僕は愕然とした。 「これは、この島に残る伝説が描かれた絵巻物です。そしてここに描かれているのが、鯱神島を今も支え続けている守り神、大シャチ様です」  でかい、とか、強そう、とかの声が上がる中、僕は言葉を失って立ち尽くしていた。  絵巻物の中で島を下から押し上げている巨大な鯱は、僕が昨日、海で彼女と見た「其れ」そのものだった。  村長は話し続ける。 「昔、ヤマトタケルもまだ生まれていなかった頃、この島では漁が盛んでした。しかし昔のことですから、今みたいに海を傷つけないように、という訳にもいかず、とにかく魚を獲り続けていたわけです。  すると、もともと海で生活していた鬼が住処を傷つけられた形になり、人間との間に戦争を起こしました。  どちらも生活がかかっているだけに、戦いはなかなか終わらず、結果として海はさらに傷つけられていきました」  絵巻物の前半部分では、半魚人のような姿をした鬼と人間たちが戦っている様子が描かれている。  村長は巻物の次の部分を指差して話を続けた。 「やがて見かねた神様が、この戦争を仲裁しようとしました。でも双方、自分の言い分を唱えるばかりで上手く行きそうにありません。  そこで神様は、皆の先生のように物事を収めようとした訳です」  ここで村長は一旦言葉を切る。  この続きを知っているだろう島津は苦い顔をしてタバコに火をつけようとし、禁煙の表示を見て舌打ちをした。
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