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「いだっ」
ぶつっという音の後、首筋に激しい痛みが走る。
一瞬呆けた津野は、信じられないと言う表情で少女を見る。
「味見しちゃったー」
という少女の口許には、一筋の血。
幼いながらも、津野は自分が何をされたかを理解した。
「ああああああああっ!」
少女の耳をつんざくように泣き叫ぶ。目からは大粒の涙がどんどん溢れてくる。
それすらも少女は愛おしそうに眺めている。
「いいなあ。やっぱり美味しいなあ。これを何年も待たないといけないと思うと辛いわー」
口許の血を名残惜しそうに舐める。
涙でゆがむ視界の中で、さらに少女はぼやけていった。
「それじゃあ、これから大変だろうけど頑張ってね。あたしに食べられる前に死ぬんじゃないよ。それじゃあ――」
どうかお幸せに。
耳元でそう聞こえたかと思うと、少しずつ津野の意識は遠くなっていった。
津野が見つかったのは、山の中腹にある児童公園。そこで昼食を摂る予定だった。
はぐれたはずの津野が誰よりも先にそこへ到着し、眠ってしまっていることに誰もが違和感を覚えたが、それ以上の騒ぎになることは無かった。
津野の目には涙の後。心配した教師は何があったのか尋ねたが、津野の答えは教師には理解できなかった。
道中にそんな場所はないし、津野が泣き叫んでいたのなら誰かが声を聞いたはずだ。
また、教師も津野と同じようにそんな少女のことなんて知らない。
その上、津野の首元には傷どころか汚れ一つついていなかった。
結局、教師達の間では「本来のコースとは外れ近道を通ってしまい、児童公園で遊び疲れ眠ってしまったときに悪い夢を見てしまったのだろう」と言う結論が出た。
そしてそれを説明された津野も、やがてそれが正しかったのだと思い込むようになる。
しかしそれだけでは終わらなかった。
以降、津野には人の不幸がわかるようになる。正確に言えば、何かに関してその人が不幸を感じているかどうかがわかるようになったのだ。
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