望んだものと捨てたもの

4/7

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 翌日も、一週間後も、一ヶ月後も、誠は男のままだった。  生理現象や慣れないことはあったけれど、男でいることは思っていた以上に快適だった。  仕事は辞めざるを得なかったが、男として再就職できた。  咲良は月に一度、誠の家を訪ねてきた。 「誠と会えませんか」  そう言われるたびに、誠の心は揺れた。  もういっそ、自分が誠だと言ってしまおうか。  けれど、そうしなかったのは、“誠”がどこにいるのかわからなければ、また咲良がくると希望がもてたからだった。  会う回数を重ねれば、咲良と新しい関係を作れるかもしれないと思った。  けれど、咲良は触れることは愚か、半径1メートル以内にも入ってこない。  咲良のために男になったはずなのに、咲良に指一本触れられない。好きだと伝えることも、手を握ることも、咲良を守ることもできない。 「私は何のために……」  咲良に手を振り払われて以来、咲良に近づく勇気が出なかった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加