望んだものと捨てたもの

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 その日、咲良は髪も服も乱れて、顔にアザを作っていた。 「咲良……!そのアザ……」  ドアを開けた誠は目をむいた。 「ごめんなさい。やっぱり来るべきじゃなかった」  咲良はそう言って、帰ろうとした。  誠はその時、何よりも先に思った。  咲良を守らなければ。 「なっ……!!」  誠は咲良を抱きしめていた。  このまま咲良を帰らせてはいけないと思った。 「誰にやられたの?」 「彼氏……」  その時、誠はそいつを今にも殺しそうな顔をしていたと思う。 「でも、自業自得だから……」 「そんなこと……」 「本当に。自業自得なの。私、彼のこと好きだったわけじゃないから」 「え……?」  意味がわからなかった。好きじゃなくて付き合うことがあるのか。 「誠のためだから。私がひとりだと、誠が幸せになれない」  なんて傲慢な女だろう。  誠のために、ただ咲良を好きだった男を利用したのだ。 「どうしても体だけは許せなくて、抵抗してたら……」  もうそれ以上聞きたくなかった。例え咲良に原因があるとしても、咲良に手をあげたことは許しがたかった。  咲良を抱きしめる腕に力が入る。  咲良の体はまだ強張っていた。 「君を守らせて」 「だってあなたは……」 「誠のことは忘れて」 咲良の体の力が抜けた。
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