あなたの願い叶えます

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 確か、ことの始まりは、昨日久しぶりに咲良とカフェで会ったことだ。  「誰か好きな人とかいないの?」  この質問は、「最近どう?」とか、「元気?」とかいう程度の挨拶だ。今までで咲良がこの質問に「いる」と答えたことはない。  最初の頃は怖いもの見たさで、手に汗握りながら聞いたものだが、最近は答えがわかっている答え合わせのようなものだった。  だから、咲良の答えを聞いて驚いた。 「実は……お付き合いしてる人がいて……」  目を伏せて恥ずかしそうな咲良を見て、自分の心が粉々に砕け散った気がした。  その後咲良が何を言ったか、よく覚えていない。  気がついたとき、誠は汚い路地で露店の前にいた。 フワフワして足が地についた気がしないし、気分が悪い。何店目かのバーでしこたま飲んだテキーラが効いている。  誠は露天の前で足をもつれさせ、喉元にせり上がってきたテキーラを側溝に流した。 「お客さん、荒れてますね」  露店の店主は薄汚いケープをかぶっていて、やたら大きな鷲鼻の奥に、濁った白目が光っている。いかにも胡散臭い。  しかし、この時の誠の半分はアルコールとヤケクソでできていたのである。 「そりゃ荒れるってもんですよ?」  そうして、どこの馬の骨ともわからない店主に、いきさつを話したのである。 「そんなお客さんに、ピッタリの商品があるんですよ」  そりゃあ、小一時間も他人の失恋話を聞かされて、そう言ってこない商売人はいないだろう。  そして、店主が持ち出した“商品”とやらが、薄汚い水差しのようなものと知れば、買う人間などいないだろう。 「買った!」  普通ならば。
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