その手を離さないで

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 「彼氏ができた」と言った咲良の指には指輪がはめられていた。エーゲージリングではなさそうだが、咲良には似合わない、大人っぽいデザインのものだった。  咲良にはもっと可愛らしいデザインの方が似合うのに。 「相手はどんな人なの?」  知りたくない。  心とは裏腹に、お姉さんぶって聞いた。  バカバカ。 「同じ会社の人で……。私、よくドジやっちゃうでしょ。それで、いつも助けてくれるんだけど、この前告白されて……。実はこのあと、会う約束してるの」  咲良はにっこり笑った。誠が凍りついてるのにも気づかずに。  その後、別れ際に咲良が紹介したいと男を連れてきた。  相手がどんな顔だったか、どんな名前だったか、思い出そうとしても思い出せない。脳が相手の男を拒んだ。  けれど、ひとつだけ忘れられないところがある。  手だ。  「じゃあ、また」と言って別れた咲良はいつものように、何もないところでつまずいた。 「咲良!」  そう言って、咲良を助けたのは誠ではなかった。  男らしい、骨ばった手が、咲良の小さな手を握っていた。 「君はよく転ぶから、こうして手を握っていよう」  手をつなぐふたりは、どこからどう見ても恋人同士だ。じゃあ、誠と咲良が手をつないだら?  咲良を守るのは私。  咲良を守るのは私。  咲良を守るのは私……          じゃ、ないの。  私が、女だから……。
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