望んだものと捨てたもの

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 誠にはできなかった。軽蔑されるかもしれない。そう思うと、誰にも言えなかった。だからこそ、どれほど勇気のいることかわかるのだ。 「あの男もそういう顔をしたのよ。まあ、当て馬にされたと思えば当然か」  あの男、とは咲良に傷をつけた男のことだ。 「友情を勘違いしてるんだろうって」  それは、誠も過去に何度も自問したことだった。けれど、何度考えても、友達とは違う気持ちだと気付かされるのだ。 「誠の白くて細い指が私の手を握る。私の服を脱がす。私の体に触れる。何度も想像したの」 「それは……」  それは、誠も何度も想像したことだった。 「せめて友達としてでも隣にいたかったのに……」  いれる。  恋人になれる。  なぜなら、誠も同じ気持ちだから。 「私は……」 「私、誠の手が好きだった。あの白いなめらかな手で、私の手を優しく包み込むのが」 「私は……」  誠は自分の手を見た。  骨ばってゴツゴツの手。力を込めると、予想以上に力の入る手。 「あなたじゃ駄目なの」 「私……」 「誠じゃないと」  私は誠。 「誠の白くて細い、あの手じゃないと……」  私は誠、じゃないの。  今は。
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