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その手を離さないで
咲良と出会ったのは幼稚園だった。
先生の後ろにいつもひっついて、誰とも遊ぼうとしなかった咲良が、最初に手をとったのが誠の手だった。
「遊ばないの?」
「この子、恥ずかしがり屋さんなの」
「名前、何?」
「咲良ちゃんよ」
この時、誠は妹が欲しかった。
先生の後ろで涙を溜めている咲良は、誠よりも小さくて、妹のように思えた。
「咲良ちゃん!一緒に遊ぼ!」
誠が出した手を、咲良は恐る恐るとった。
その手をギュッと握って、遊びに連れ出した。小学校にあがっても、中学校にあがっても、ずっと一緒だった。
“咲良は私が守る。私は咲良のお姉ちゃん。”
その気持ちは、中学校のときに揺らぎ始めた。
中学の夏祭りのとき。
地元の夏祭りに、ふたりで一緒に出かける約束をした。
普段着で現れた私に、咲良は「浴衣で来ようって言ったのに」と膨れっつらでそっぽを向いた。
元から男顔で、女らしさのかけらもない私には浴衣なんて似合わないって言ったのに、全然聞く耳を持たない。
対して、大輪の花が描かれたピンクの浴衣を着て、頬を桜色に染める咲良は、存在そのものが華だった。
慣れない草履で何度もつまずく咲良を振り返った。
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