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0.黒猫探偵レイジ
『鳩田さん、犯人はあなただッ!』
とある屋敷の中。探偵を名乗る少年にびしっと指先を突きつけられた鳩田はうろたえた。腕を掻きむしりながら叫ぶ。
『ど、どこにそんな証拠があるんだ? だいいち部屋は密室だったんだぞ』
『フフ、たしかに部屋の扉は自動ロック。窓にも内鍵がかけられ、完全な密室状態でした。ただし自由に出入りできる扉がひとつだけあったんです。そう、キャットドア……通称ペットドアがね』
かたん、と音がしてペットドアが開いた。中に入ってきたのは一匹の黒猫である。驚愕する一同を見て「にゃあん」と可愛らしく尻尾を揺らした。
『簡単なことですよ。鳩田さん、あなたはあらかじめ自らの飼い猫にペットドアを覚えさせ、秘密裏にこの屋敷へと連れ込んだのです。殺害された蛯名さんは大の愛猫家。突然の猫に驚きつつも笑顔で受け入れたことでしょう。あなたはこう言った。飼い猫が勝手に入ってしまった、連れ戻したいので扉を開けてくれないか、と。言われたとおり扉を開けた蛯名さんを隠し持っていたナイフで殺害し、あとは扉を閉めれば自動でロックされる。これで密室殺人の完成です』
『バカを言うな。おれは大の猫嫌いなんだぞ、そんなおれが』
鳩田の足元で、にゃあん、と黒猫が鳴いた。その視線は鳩田の腕を見上げている。
『鳩田さん、あなたは致命的な証拠を残している。猫アレルギーで触るのもイヤだとおっしゃっていたあなたの腕についているその毛……猫のものではありませんか? 調べればこの屋敷の飼い猫かそうでないかはすぐに分かります』
『う、うう』
『鳩田さん、猫に罪はないのです』
とどめの一言で鳩田はがっくりと項垂れた。
『半年前に野良猫を拾ったんだ。ずっと猫は嫌いだと思っていたのに面倒を見るうちに愛着が湧いて、可愛くて仕方なかった。だけど蛯名が、珍しい三毛猫のオスだから売ってくれと持ち掛けてきて、断ったら嫌がらせをしてくるようになったんだ。蛯名の圧力で仕事は辞めさせられ、妻とも離婚した。アイツだけは手放せなかったんだ、どうしても。だからこの手で――……』
泣き崩れる鳩田に甘えるように寄り添ったのは、彼が愛してやまない三毛猫だった。
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