第2章

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心がある部分を、でっかい針でぶっ刺される痛み。 いいや、痛みなど感じる資格も、場合でもない。 「はぁー…あのなぁ、俺のせいじゃないぜ?アイツが俺の物を壊しちまって、…なんつぅか俺も苛立った口調だったけど、いらねぇって言ってんのに、あっちも喧嘩腰で、買ってくるって怒鳴って出て行った先で…。馬鹿だよな、アイツ。家のドアを出た瞬間だぜ?運、悪過ぎじゃねぇ?」 笑いたくもない口の端を引きつりあげて、自己弁明と彼の恋人を嘲笑っている口調。 そうすれば、虚ろだった澄夜の目が、僅かに怒気というには暗く鋭い、殺気という方が近いものを宿して、やっと、此方を見た。 そうだ。それで良い。澄夜の、まだ肉体に収まる心臓が動いているから、ただここにあるというだけの魂を、彼方にやらない為なら、どんな感情を向けられても良い。 彼の自ら鼓動を止めようとする妨げに、少しでもなれるなら、何でもする。 これは、澄夜の恋人の願いでもあるのだ。 病院に運ばれて、澄夜が駆けつけて来る間に聞かされた願い。 『おねがい…、もしもの時は…彼を…追わせないで。…おねがい…エイちゃん…影志』 『バカっ…んな事言うなっ、陽治!』 陽治は、病院に運ばれた後、直ぐに手術となり、数日間、意識が無い状態だったが、一度だけ目を覚まし、病院に運ばれた日に駆けつけ、不眠不休で付き添っていた澄夜と言葉を交わした後、直ぐに急変して息を引き取った。
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