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ふたり、湖が見渡せる丘の地面に並んで座り、傾いてきた陽の光が反射して金色に光る湖面を眺めていた。
「てっきり、水遊びしたいんだと思ってバスタオルとか用意してきたんだけど、眺めるだけで良いの?」
「良いよ。ただ、こうやって自然に囲まれた場所に来たかっただけだ」
「ふーん…」
幼い頃、好きになった人。大切な人。
心臓を鷲掴みにされた日のように自然に囲まれている場所で、告げたい事があった。
隠れ場所も無くて、雨の匂いと雷の音が足りないけれど。
影志は、ルドーと旅に出る事を承諾していた。
澄夜とは別れる、陽治としては、二度と会わないだろう。だから、お前はお前の好きにすれば良い。
そう、告白するつもりだ。
永遠の離別の言葉。
「ねぇ、これ…」
先に口を開いたのは澄夜だった。
差し出してきた、小さな紙袋。
何も買うなと言ったのに、あの雑貨店の物だ。
「これ…って」
「ごめん、何もいらないって言ってたけど、見つけたら、どうしても渡したくなって」
言うつもりの文句は飲み込んで、包み紙を開いて中を見て、今度は息を呑んだ。
だって、コレは、
「…ポンちゃん、好きだったよね。ごめんね、俺は、今のお前が何を好きか、その子を今でも好きかは、解らない。でも、見た瞬間、なんだかとても懐かしくなって、お前の手元に置いてあげたくなった」
「……あ…りがとう」
驚愕に、自失状態だったが何とか、お礼だけは喉の奥から絞り出した。
ガラスで出来ているコレは、あの陽治が事故に遭った日、喧嘩の原因である壊れた物と全く同じ物だったからだ。
次回更新日、8月23日の日曜日です。
いつも読んでくださって、ありがとうございます。
お盆を、ゆっくりお過ごし下さいませ。
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