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澄夜から貰ったポンちゃんの置物を、大切に鞄へと仕舞い込み、結局その場では何も言えず、ネクタイピンも渡せないまま、帰路に着いて、マンションの薄暗い駐車場へと車を止めた。
2人で車を降りて、後部座席から荷物を取り出そうとする澄夜の腕を捕まえる。
マンションの部屋へと戻ってしまえば、言える自信は無かった。
「澄夜、これ、色々貰ってばっかだから、お返し。いや、全然そんなので足りないと思うし、何より要らないかもだけどっ…」
要らなかったら捨ててくれて良い、と言う前に受け取って包みを開けた澄夜は、ネクタイピンに口付けると、今日していたネクタイに着けていた物を外して、直ぐに付け替えた。
「とても嬉しい。大切にするね」
これが最後になるのが、何よりも惜しく感じるくらい、薄暗い中でもはっきりとわかる優しく嬉しさに溢れた笑顔だった。
「…いいや、お前は捨てたくなる」
「ん?どうしたの?」
「それは、陽治としてじゃなくて、影志として、俺からの最期のプレゼントだから。俺は陽治をやめる。そして、ルドーと旅に出る。だから、お前はもう、お前の好きにして良い。俺のせいで、陽治をお前から奪っておいて、澄夜には生きて欲しいっていう俺の醜い独り善がりのせいで、今迄、手放せなくて、漸く、なんとか腹をくくるのが、今更になって本当にごめんな。…ごめん」
許して欲しいなんて図々しい事は思っていないが、何度も口から溢れるのは謝罪で、澄夜の掴んだ腕を離し、大切な物が入った鞄を震える両手で握りしめて下げた頭は、澄夜の顔を見るのが怖くて上げられない。
涙を流す資格は無いから、地面を睨んで耐えた。
次回更新日は、8月30日の日曜日です。
いつも読んでくださって、どうもありがとうございます!
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